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仙台家庭裁判所 昭和32年(家イ)361号 審判

(国籍 アメリカ合衆国ホーソーンネバタ州 住所 仙台市)

申立人 ルイス・エヌ・ブラット(仮名)

本籍 北海道 住所 仙台市

相手方 上田通子(仮名)

主文

一、申立人と相手方は本日離婚する

二、当事者間の長男ルイス、キン、ブラット(昭和二九年五月○○日生)の親権者を申立人と定める

三、申立人は前項長男の養育料として昭和三十二年八月一日より毎月十五日限り申立人が長男を引取るまで一ヶ月五拾ドル(日本邦貨一万八千円)を仙台家庭裁判所気付として相手方に送金支払うこと

四  、相手方は申立人が帰国後同人より長男引渡を要求された時は申立人の指定者に無条件で同人を引渡すこと

五、当事者双方は互に離婚に関し将来金銭上の請求および迷惑となる言動をしないこと

理由

当裁判所は昭和三十二年八月十三日の調停期日に於て当事者双方に調停を試みたる処、申立人の離婚調停申立の要旨は、申立人は一、九五二年十一月米国駐留軍として日本国に駐留しているが、相手方とは一、九五五年四月○日東京都に於て婚姻した。然し実際はそれ以前より事実上夫婦生活を営んでいた。そして現在肩書地に居住している。

申立人と相手方には昭和二十九年五月○○日男児ルイス、キンが出生したが本年四月中、軍隊及び米国大使館へ出生届をした。申立人は昭和三十一年一月都合により単身帰国し同年四月再び在日部隊に帰隊したが相手方はその間(留守中)他の男子と情交干係を結んだことが判つた。申立人は相手方に、かかる不貞行為を宥恕していないので、相手方に対し不貞行為を原因として離婚を要求する。なお当事者間に出生した右長男の親権者を申立人に指定することを求め、申立人は長男を直に引取り本国に連行し養育したいが、申立人の父母は已に離婚し目下母の所在も不明である。それ故に帰米後父及び弟と相談し、養育準備を整えた上干係方面に手配して、長男を引取る予定である。依て引取るに至る迄相手方に対し養育料として本月より毎月十五日限り一ヶ月五十弗を送金支払う。そして本件解決次第軍の命により帰国することに決定しているので、本件申立におよんだというにある。なお申立人は相手方が主張するように昭和三十年半ば頃より同三十一年四月頃迄約一ヶ年余相手方に生活費も与えず抛擲したことの事実を認めた。因に本年六、七、八月分の家族手当(一ヶ月六十弗の割合)は未受領であり妻(相手方)名義で支給があるので同人の所得とすることは当然で異議はないと述べた。

相手方の陳述要旨は、申立人が昭和三十一年一月帰国し四月再び在日部隊に帰隊したこと、同三十年より同三十一年四月末頃迄約一ヶ年余故意に生活費を支給せず申立人が相手方を抛擲したこと、従つて申立人が帰国留守中不貞行為をしたことはやむを得なかつた事情であつた旨弁解し相互に離婚原因の行為があるから、離婚の要求に同意すると述べ、なお申立人が長男を直に引取り難い実情にあることは承知していること、長男を引取る迄責任を以て養育を引受けること、養育料は引取りに至る迄本月より毎月十五日限り一ヶ月六十弗の支払を要求する。その余の申立人の申立理由及事実は全部承認するというにある。

依て重ねて種々調停を試みたが、結局養育料について意見が対立し、調停は不成立となつた。しかし当事者双方は裁判所に於て双方のため一切の事情を観て公平に考慮し、審判により判断し決定されることには苦情はない旨陳述した。

依て当裁判所は調停委員の意見を聴き職権を以て審案するに、先づ申立人の主張する離婚原因の存否について申立人の本国法であるネバタ州法中離婚に関する法規を検討するに、同法規によれば婚姻後妻が他の男と不貞行為をなしこれが宥恕されていない場合は離婚の原因であり又夫が時期の如何を問わず一年に亘り故意に妻を抛擲した場合は離婚原因と定めている。従つて本件においては当事者双方の陳述により明かであるように互に離婚原因となる作為があるので当事者双方に各その責に帰すべき離婚原因たる事実が存在し、共に原因を認めるので申立人の離婚請求は理由がある。

そこでかかる離婚原因が日本国民法に於て離婚の事由に該当するか否かを考察するに、同民法第七百七十条第一項第一号には、妻の不貞行為を離婚原因と定めてある。故に申立人の離婚要求の事由は右の規定に該当し日本国民法においても離婚の原因に相当するので、本件離婚要求の理由は申立人本国法及び日本国民法によつて認容される適法のものである。

次に当事者の長男ルイス、キン、ブラットの親権者を申立人に指定することは相手方において同意する処であり、只本件においては申立人が長男を直に引取らず帰国後引取りの準備の上引取りの時期を決定し日本国における引取人を指定する迄相手方に於て養育することを承諾し、養育料について相手方は六十弗を要求し、申立人は五十弗を主張し意見が合致しないだけである。依てこの点について判断すると、申立人は本件離婚解決次第軍部の命令により帰国することに決定しているのみならず、申立人において直に長男を引取り一緒に帰国出来ない事情にあることは相手方も充分諒解している実情であるから、申立人の収入の状況(一ヶ月一三六ドル)と相手方において長男を養育する諸費用など一切の事情をみて公平に考慮すると一ヶ月五十弗(日本金一万八千円)を以て賄い得るものと推認し得るので申立人が引取るに至る迄長男の養育を引受けこれに要する養育料は右金額を以て相当と認める。よつてアメリカ合衆国ネバタ州法中離婚に関する法律および日本国法例第十六条同家事審判法第二十四条に則り主文の通り審判する。

(家事審判官 三森武雄)

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